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2010年4月18日 (日)

PINK FLOYD / The Wall(その2)

Pinkfloydthewall

 旧C面、第3部はアルバムのハイライトであろうか。物語的には徐々に壁を作りその中で閉塞状況に追い込まれていく主人公を表現しているのだろうが、音楽的にはお馴染みの曲が両端に配置されていることもあり、内面を扱った場面であるにもかかわらず、とっつきやすい仕上がりになっていると思う。この面の構成は、おおまかにいえば「Hey You」、そして「Is There Anybody Out There」から始まる10分近い組曲、そして「Comfortably Numb」という3部に考えると、分かりやすいかもしれない。
 「Hey You」は一見AORとも云われかねないバラード・タイプの曲で、後半さりげなくフロイド的に重厚なサウンドに展開していくあたりはさすがだが、同時に第3部のプロローグにもなっている。「Is There -」に始まる4曲は、これ自体ひとつのセグメントとして捉えた方がいいだろう。その中心となるのは「Nobody Home」と「Vera」という内省的な曲だが、この両端にはSE、間奏曲なインストがサンドイッチされ、更には「Bring the Boys Back Home」のラストではきちんと「Is There -」のコーラスが再現されてもいて、音楽的にもきちんと帳尻を合わせているところでも明らかだ。
 「Comfortably Numb」はこの最終地点に現れる訳で、その感動もひとしおだ。この曲はライブでも単独で演奏されるが、やはりこうした構成の中に配置されてこそ....という感もなくはない。これだけ刈り込まれた音楽の中で、ギルモアのギターがこれだけフィーチャーされているということは、バンド自身ここがハイライトとしたかったことの現れだ。

 旧D面、第4部は主人公の閉塞状況が臨界点に達する前半と、その結末たる後半という2部構成だろうか。「Show Must Go On」「In the Flesh」はアルバム冒頭の再現部に当たる(前者は「Thin Ice」に相当する)。再現される順番が逆なのは、この作品の結末を思えば必然ともいえる構成なのだろう。
 そしてその果てに登場する「Run Like Hell」は暴走自我を表現したともとれるような曲だが、刹那的なディスコビートやリフにのって進むその音楽は、主題が再現された後でもあり、私にとってはなにやら映画のエンドタイトルのようにも聴こえる。ミュージカルでいえば、物語が終わり出演者が舞台に総登場して手を振りながら歌うような感じとでもいったらいいか。ジェネシスでいえばちょうど「It」のような感じである。ともあれ、物語的に、これは劇中劇のお終いといったところなのだろう。
 後半は「Waiting for the Worms」は、主人公の屈折しつつ膨張した内なるファシズムを表現している曲なのだろう。ミリタリー調の楽曲に何故かビーチボーイズ他のコーラスをのせることで、その屈折した状況を音楽的にもよく表現している。途中、「Another Brick in the Wall」が再現するのは、主人公の「壁」の内と外ということなんだろう。「Stop」と「Trial」は、間奏曲とオペレッタ風な法廷場面の音楽で、物語的には要するに「おまぇ、外に出ろや、ゴルァ」ってところか。そして、壁は破壊され、主人公は外に出るが、なんとそれは元の場所だったという結末が来る。アルバム冒頭の牧歌風なSEの再現され、「ドグラマグラ」みたいな円環構造の完成するという訳である。

 という訳で、このところ何度か集中的に聴いてみた印象のようなものを、ツイートのログを元にメモしてみた。個人的には主人公の円環構造を暗示する結末は、なんだか、ありがちなラストのように感じてしまったもするのだが(「Run Like Hell」で、突き放したように終わってしまうのもありだと思う)、ともあれ、その手応えと重量感はさすがであった。ディテールに至るまでよく考え込まれ、一見「ありきたりな音楽」を装いつつ、実は巧妙にフロイド的音楽が織り込まれていたことが発見できたし、なんといっても、随所に優れて音楽的な手応えがあったことを認識できたことは、個人的には非常にうれしかった点である。
 なにしろ「ウォール」発表後、30年という年月を経ってしまった訳だから、この巨大な音楽が今更好きになれたといっても、遅きに逸したところはないでもないが、音楽の嗜好はほぼ固定化して、「駄目なものは駄目」みたいな頑なものになりつつある現在、こうして苦手なものを克服できるということは、やはりうれしいものである。昔はこんなことは日常茶飯事だったのだが…。思えば長い道のりであった。

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コメント

twitterやblogで、いつもお世話になっています。
Pink Floydは私の最愛のバンドなんですけれど、この『The Wall』だけは、2枚組大作なのにどこか物足りなく感じて、今一つ乗り切れなかいところがありました。
でも、blogoutさんのレビューを拝見して、またじっくり聴き直してみたくなりました。
まず、「In The Flesh?」のイントロでビクッとしてしまうのを克服しなくちゃ。宇宙飛行士のわくわくとした混沌のスリルを感じるために。

どうも、コメントありがとうございます。

>この『The Wall』だけは、2枚組大作なのにどこか物足りなく感じて、
>今一つ乗り切れなかいところがありました。

自分など四半世紀近く、本作を駄作と決めつけてきましたから、「乗れない」「あれはフロイドじゃない」というのはよく分かりますが、少なくとも今回聴いてこれだけは言えると思うのは、このアルバムは「とんでもなく良く出来ている」ということです。


> またじっくり聴き直してみたくなりました。

Twitterの方でもひょんなことからハッシュタグができ、盛り上がったのと自分がフロイド再評価のプロセスが一致したのは僥倖でした。なんだかこれを機会にかのアルバムを購入した方もいるようで、私までうれしくなりました。

> 宇宙飛行士のわくわくとした混沌のスリルを感じるために。

いい形容ですね。冒頭のSEはまさにそんなスリルがあります。そして赤ん坊の泣き声、シュールです。

ジェネシス、イエス、EL&Pがポップ化していく中で、本作は重いテーマで正面から立ち向かっていくような気がして、評価していました。むしろ自分としては「アニマルズ」が苦手。

発売されて30年を経てますが、音そのものはそんなに古さを感じさせない…っていうのは自分の歳のせいかw

>、少なくとも今回聴いてこれだけは言えると思うのは、このアルバムは「とんでもなく良く出来ている」ということです。

ですね。
ロジャーが、「音楽家」のDaveとRickに対して自分(とNick)を「建築家」と称したのも、こうしてみるととても頷ける感じです。

> むしろ自分としては「アニマルズ」が苦手
好き嫌いはともかくとして、「アニマルズ」は高校時代散々聴いたから、とりあえず自分の血肉にはなってますね。説教臭くてかなわんなぁ…みたいな感じの伯父さんってところ。

>自分(とNick)を「建築家」と称したのも、こうしてみるととても頷ける感じです。
4面に分かれた各部の起承転結、そこに細かく配置された循環する主題、演奏とSEのバランス、そして本作ではありきたりなロック・スタイルとフロイドらしさを騙し絵のように配置しているところなど見事ですね。まさに建築家って感じです。

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