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2010年3月21日 (日)

RICHARD WRIGHT / Wet Dream

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 これもほとんど初めて聴くアルバム、リチャード・ライトといえば「エコーズ」や「狂気」におけるサウンド面での貢献はいわずもながなだったし、私はもともと初期のピンク・フロイドの「追想」とか「サマー68」といった彼の歌う作品が好きだったこともあり、発表当時(1978年)はそれなりの注目していたはずなのだが、私が居たコミュニティででの評価は散々だった。いわく「気の抜けたビール」だの「やる気がないんじゃないの」といったもので、とにかくこの作品の「覇気のなさ」のようなものに、皆一様にがっかりしてしまったようであった。
 当時のフロイドは、既に「狂気」や「おせっかい」のような音楽的陣容は終わっていたのだが、まだまだそうしたフロイド・サウンドを求めていたファンは世の中にはまだまだ沢山いて(私もそのひとり)、本作はそうした期待を一身に集めてしまったところに、そもそもの不幸があった気が-今にして思えば-しないでもない。そんな訳で、私はこの作品にはほとんど関わることがないまま、30年が過ぎてしまったという訳である。

 さて、本作であるが、もはや歴史的にフロイドが終わりかけているこの時期に聴くと、もはやそれほど過大な期待も、次にバンドが「ウォール」が出ることも知っているから、1970年代後半の「アナザー・フロイド」もしくは「フロイドのスピンアウト」として楽しめる。これは1978年という時期において、フロイドで彼の居場所がなくなっていたこともよく分かる音楽ともいえる。例えば本作中、もっとも往年のフロイド色が出ていると思われる「Cat Cruise」では、「狂気」直伝ともいえるピアノをベースにした弾力的なサウンドに「エコーズ」的な上昇感を加味したような音楽になっていて、半音づつ転調繰り返しつつ、大きな波みたいに山場つくる後半部分などなかなかいい味を出しているのだが、「アニマルズ」や次の「ウォール」には全くみられない趣向であるのも確かである。
 つまり、既に当時のフロイド内ではこうした浮遊感やキーボード主体の音楽は用済みになっており、それが思うように出来なかったから、ソロでこうした音楽を展開したということであろう。ならば、こうした手法をもっと積極的に使った、それこそもう少し覇気のある音楽つくらなかったのだろう?と思わないでもないのだが、そのあたりは「リチャード・ライトの人柄なんだよ」ということと同時に、これが作られたのが1978年だったということも大きかったと思う。

 1978年といえば、歴史的にもプログレの終焉期である。パンクやニューフェイブといった世代交代が劇的に進み、一流バンドは自らが作り上げたスタイルの自己再生産を始め、ポップなスタイルに変身していた時期でもあった。おそらくリチャード・ライトもそのあおりを食らったのだろう。前述の通り、リチャード・ライトの持ち駒は、既に「古いもの」になってしまっていたのだ。往年のフロイド的手法が薄味なのは、おそらくこうした理由があったからでもないか。つまり、時代的に陳腐なものになるのが怖くて、フロイド的なものを全面的には開陳できなかったのである。
 そんな訳で、このアルバムから感じられる「なんだか躊躇するような感じ」(これはデビッド・ギルモアの一作目も感じられた)は、まさに1978年という時代ならではの空気を私に感じさせる。本作の随所にまるでアリバイ作りのように入るメル・コリンズのメロウなサックスや柄にもないフュージョンっぽい音作りをした「Funky Deux」が、まるで1970年頃にタイムスリップしたような淡い抒情を感じさせる「Summer Elegy」や「Pink's Song」といった作品と、アルバム内に混在している様は、プログレ終焉期の1978年という時代ならではものである。その意味で、本作品は初めて聴くのに妙に懐かしい気分にさせられたアルバムでもあった。

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コメント

これの評価の低いのは何となく理解できるのは「プログレッシブ・ロック」という呪文にこだわると、当時の状況からすれば「後退じゃないのか?」って内容なんですね。

オレの場合は、そういうこだわりってほとんどないので、非常に素直に楽しめたし「夢精」を意味するタイトルや、下世話なくらいメロウなメル・コリンズのサックスが、スノッブなプログレ・ファンには受けない方がむしろ楽しい。


親しい人にしか薦めない、好きなアルバムです。

> オレの場合は、そういうこだわりってほとんどないので

 まぁ、当時はオレなんかも、そういう部分にこだわっていましたからね。周囲の評価聞いてパスしちゃったんだけど(笑)、まぁ、ある程度年月を経て、当時の流行とか、時代的なこだわりとかが、すっかりと洗い流された後で、その音楽の持つ本当の価値みたいなものが認識されるというのは当然ある訳で、このアルバムなんかも、今まさにそういうプロセスにあるんじゃないのかと思います。
 なので、オレからすると、当時の不評というのも分かるし、さすがに30年、すでにオレ自身の「こだわり」も半ば消滅しているから(笑)、逆に本作が持っている78年という時代特有の「過渡期」みたいなムードが、今聴くと妙に懐かしくて、聴いていて「あぁ、こうなるの、わかるよなぁ、染みるなぁ」みたいなところもある....って感じですかね。

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