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2010年2月 2日 (火)

SADCAFE / Fanx Ta-Ra

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 先日、サッド・カフェのデビュー作「哀しき酒場の唄」(1977年発表)を、CDでようやっと入手できた。CD期に入って早四半世紀たいていのアルバムは既にアナログ盤からCDに買い換えが済んではいるものの、一部、いつになってもCD化されないもの、あるいはCD化されたが買い逃していたものがあって、このアルバムなどはその最右翼といえるものであった。サッド・カフェのサッド・カフェたる作品といえば、やはりセカンド・アルバム「殺怒珈琲II」ということになるかもしれないが、個人的にはこのアルバムもセカンドに負けず劣らず大好きなアルバムなのである。

 サッド・カフェがオリジナル・マンダラバンドを母体として結成されたことは有名だけれど、この作品はいったん作りかけて何らかの理由でボツになったのか、そもそも構想だけで終わったのか、そのあたりはよく分からないところが(おそらく前者だろう)、ともかくオリジナル・マンダラバンドのメンツにより、制作されるはずだったマンダラバンドの2作目がもし出来ていたら、いったいどんな代物だったのか?が、濃厚にうかがい知ることができる内容なのである。私はそうした本作の随所に散りばめられた「幻のマンダラバンドの2作目の幻影」が大好きなのだ。

 その「幻のマンダラバンドの2作目の幻影」はB面の濃厚だ。ほぼ片面全てを使ったこの組曲風なメドレーは、サッドカフェがその後に展開するAOR風な音楽という観点から見ると、プログレ的な大仰さがあまりに濃厚なため、音楽的にはちと破綻しているようなところがないでもないのだが、そのいかにも過渡期然といった感じのとっちらかった豊富な情報量は、まさに1977年という時期だからこその趣がある。まず、冒頭はヴィック・エマーソンによる不気味なスケールを感じさせるキーボード・オーケストレーションによる前奏に始まる。この雄大なスケール感にアシュレイ・マルフォードのギラギラしたギターがのって音楽が高揚していく様は、オリジナル・マンダラバンド以外の何者でもあるまい。

 とりわけ、興味深いのはメドレー3曲目の「フリングスの休日」である。ジャズ・ロックというにはあまりにリゾード風というか、ボサノバ・フュージョン的な洗練されたインストだが、実はこの曲のリズム・パターンやムードが本家マンダラバンドの第2作の「ライド・トゥ・ザ・シティ」に酷似しているのは、おそらく偶然ではないだろう。たぶん、オリジナル・マンダラバンドの2作目のマテリアルとして作られたものを、どちらも流用しているのだと思う。「幻のマンダラバンドの2作目の幻影」の最たる部分のひとつである。ちなみにこの演奏、ビリー・コブハム風のドラムといい、ハンコック風なピアノといい、フュージョンとしても実に素晴らしい出来(当時のイギリスのスタジオ・ミュージシャンの腕の高さに感心することしきり)。そこにマルフォードのロック魂が炸裂するようなギターがのるのだから、まさにプログレである。うーんたまらない。

 さて、このメドレーのハイライトは「クラムビデクトラウス」でやってくる。序盤こそ男女のデュエット・ボーカルにのって軽めに始まるが、歌いまくるギターのテンションが上がった1分半のところで、音楽の様相が突如一変、70年代初頭の雰囲気がむんむんするブルースロック的なヘビーなリズムも凄い迫力だが、ヴィック・エマーソンによる後期ロマン派風(金管の咆哮をシミュレートしているあたりの執拗さ)キーボード・オーケストレーションも凄い。半音階的手法でどこまでも昇り詰めいくように音楽が展開していく様は、ワーグナーの「トリスタン」も顔負けの迫力である。加えて、「オレがロックだ!」といわんばかりに歌いまくるギターも素晴らしく、このクラシカルなオーケストレーションとギトギトとしたロック・ギターのドッキングこそは、「幻のマンダラバンドの2作目の幻影」以外の何物でもないといったところだろうか。

 このドラマチックなハイライトを受けた「アイ・ビリーブ」がまたいい。この名曲はシングル・カットされ、そのジェントルなポップさ故か、イギリス国内でまずまずのヒットした。おかげで彼らの活動は順調に滑り出す訳だが、果たしてそのせいで、今回取り上げたような、このアルバムには前述の如く随所に残存していたマンダラバンド色は、次作はほとんど消えてしまうことになる。もちろん、2作目自体は素晴らしい出来だったので、それはそれで良いのだが、やはりこのバンドの前身を知るファンとしては、少し寂しい思いをしたのもまた事実であった。

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コメント

CD出たんですね。知らなかった。

このアルバムは当時聴いてましたが、ポップチューンの中のギターソロやキーボードソロにマンダラバンドの面影が散見できるって程度の認識だった。

「クラムビデクトラウス」のあたり今夜家に帰って聴き返してみます。

> ポップチューンの中のギターソロやキーボードソロに
> マンダラバンドの面影が散見できるって程度の認識だった

まぁ、客観的に見れば実体としてはそんなものでしょう(笑)。ただ、デビュー・アルバムの随所に吹き出ている過剰なドラマチックさは、やはりマンダラバンドの後遺症、そしてヴィック・エマーソンという変態キーボード奏者のセンスだったのだと思います。ともあれ、10年はこのアルバム、聴いていなかったので、もう毎日聴きまくってます。この座り悪いプログレとポップ感覚のゴッタ煮はたまんないす(笑)。

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