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2010年2月15日 (月)

CARAVAN / Waterloo Lily

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 誰でも自分の愛好している音楽、あるいは音楽ジャンルは「他とは違う特別なもの」と思いがちである。例えば「ロックは音楽じゃない文化(カルチャー)だ」とか「ジャズは魂で聴け!」、「クラシックは人類の最高の遺産である」といったものだ。プログレなどもそうである。元々上昇志向が強く、芸術性の追求やその結果としての脱ジャンル音楽といった側面が強かったため、とりわけて「特別視」をされる傾向が強いように感じられる。だが「孤高な音楽」であるはずだった、プログレも今聴いてみると、意外なところにそのアイデアの源泉というか、言葉は悪いが「元ネタ」があったことに気がつくこともある。その一例が、キャラバンの第4作「ウォータールー・リリー」の2曲目に収録されている「ナッシング・アット・オール」というリチャード・シンクレアが主導した曲である。

 キャラバンといえば、カンタベリー・シーンでもソフト・マシーンと並ぶ両雄であり、まさにワン・アンド・オンリーな存在という感じのバンドだ。しかも、「ウォータールー・リリー」ともなれば、キャラバンの数あるアルバムでも、もっともジャズ色が強く(旧A面だけ)、孤高な作品というイメージがあり、この「ナッシング・アット・オール」などは、まさにそうした面を象徴したような曲ともなっている。しかしながら、この曲、実はマイルス・デイヴィスの「ジャック・ジョンソン」の「ライト・オフ」を「元ネタ」....いや、少なくとも、濃厚な影響を受けて作られた曲である(としか私は思えない)。イギリスのカンタベリーのコアみたいなキャラバンに、ジャズ界の巨人マイルスといったら、国も音楽の立ち位置もあまりに違い過ぎて、直感的に結びつかないというムキもあるだろうが、両方のアルバムをお持ちの方は、ぜひ虚心坦懐で聴き比べてみていただきたい。

 元ネタの「ライト・オフ」は、いきなり豪快にマクラフリンのギターに耳を奪われがちであるが、背後に陣取るファンキーなベース・ラインとベタなドラムのリズム・パターンは、「ナッシング・アット・オール」とやけ酷似している。元々マイルスのこの曲はベタでファンキーなリズムに、オブジェのような趣の切れ切れのソロをあれこれのっけていく、実験のようなセッションから切り貼りされた曲だった訳だが、キャランバン...いや、リチャード・シンクレアは、おそらくそのアイデアにいたく魅了され、バンドでやってみようと思い立ったのだろう。出来上がった曲は、ファンキーなリズムに乗って様々な楽器(フィル・ミラー、ロル・コックスヒルがゲスト参加)のアドリブが切れ切れにリレーするメインの部分にスタティックな中間部、そしてメインのパートのリピートである後半部という、構成すら「ライフオフ」を敷衍するような仕上がりとなっている。まさにキャラバン史上でも珍しい、「キャラバン・アラ・マイルス」的な瞬間の誕生だった訳だ。

 などと、今回も長くなかった(笑)。最後にこの曲が持つ「ライトオフ」とは明らかに異質な点をひとつ指摘して今回はまとめたい。この曲はスタティックな中間部がしばらく続くと、メインのテーマに戻る前に、非常に印象的なアップテンポなインプロ・パートが挿入される。この部分がやけにスリリングに進行し、そのハイライトでもって怒濤のようにテーマに回帰する訳だが、こうした構築的ともいえるアレンジは、全くもって「ライトオフ」にはない趣向である。キャラパンはこの曲では一見ジャズ・バンドのように振る舞いつつ、この部分では一気にこのバンドのプログレ的な素地を放出したといったところだろう(このパートではピアノ専門だったはずのスティーブ・ミラーが、何故か一瞬だけデイブ・シンクレア風なオルガンを弾いているところに注目したい)。この曲はこうした部分があったからこそ、単なる「ライトオフ」のエピゴーネンに終わらず、ジャズ・ロックの名曲となったのである。

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コメント

ライトオフとナッシング・アット・オールは明らかにそう思います(ました)しかもさ、ライトオフって若かりし頃見た××ビデオのBGMに使われててぶっとんだこともあって、このネタはNifでは封印してたんだけど思い出しました。

これにカンタベリー系に限らず、70'年代米ジャズからプログレの方に流れた影響って、大人になって気づくとずいぶんありますね。特にマイルスのビッチズ・ブリュー以降の一大潮流はあちらこちらで影響を見かける。高校生の時は全然気づかなかったけど、ある程度大人になって色々聴いていくにしたがって、見えてきたのって多いです。

逆にプログレの方ではシンセサイザーの導入(これはキース・エマーソンの貢献大だと思う)とか、やはり電気関係の飛び道具の導入使いこなしでは一日の長があったと思う。

うほほ、ひょっとすると「ナッシング・アット・オール」と「ライト・オフ」の類似関係って、ファンには自明なことだったかな?。まぁ、この他にもソフト・マシーン6と「ピッチズ・ブリュウ」とか、ハットフィールドとRTFとかもけっこう思いつくんだけど、これはあまりに歴然としてますよね。

いや、何となく似ているなあとは思ってたけど、ココ読むまで、すっかり忘れてました。

>ハットフィールドとRTFとか

ノーセッツの女声コーラスの使い方なんかまで似てますね。

思えば、「ビッチズ・ブリュー」ってマクラフリンとデイブ・ホランドが参加しているんだから、英国ミュージシャンが大注目していても何の不思議もないんだけど、自分も若かりし頃は「プログレだけは特別!」って意識あったなあ…。

> ノーセッツの女声コーラスの使い方なんかまで似てますね。

ソフト・マシーンの「6」は、かなり濃厚に「ビッチズ・ブリュウ」の影響ありますしね。たぶん、カール・ジェンキンズかジョン・マーシャルがマイルスのこと好きだったんでしょうね。

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