« KEATS | トップページ | ROGER WATERS / The Pros & Cons Of Hitch Hiking (ヒッチハイクの賛否両論) »

2010年2月24日 (水)

ANTHONY PHILLIPS / Sides

Image035


 マイケル・ジャイルズのタイコが好きだ。ところが、彼の最盛期のドラミングが聴ける作品は意外と少ない。さしずめ「クリムゾン・キングの宮殿」を筆頭に、「マクドナルド&ジャイルズ」と「ポセイドンのめざめ」がピック3といったところだろう。もちろん、M&G以降もロパート・ハイン、ジョン・G・ペリー、あとレオ・セイヤーなどの作品などに、彼の名前はみかけたが(近年、当時お蔵入りなったソロ・アルバムなども出たりした)、クリムゾンやM&Gのようなドラミングを期待して聴いたところで、どれも前記3作のようなそれは全くといっていいほど披露せず、もっぱらセッション・ミュージシャン的な手堅いドラムで、律儀にリズムをキープしているだけだった。一体、ジャイルズにとって、「宮殿やM&Gでのドラミングはなんだったんだ?」と思わざるを得なかったが、そのマイケル・ジャイルズが、奇しくも「宮殿」から10年後に、あの時のドラミングを思い出したように披露したことがあった。それが本作、アンソニー・フィリップスの「サイズ」である。

 本作はアンソニー・フィリップスが残した膨大なソロ・アルバムでも、おそらくもっともジェネシス的なシンフォニック・プログレ的な色彩が強い作品だと思う(「1984」や「スロー・ダンス」というシンセ作品もあるが)。多分、フィリップスは当時、順調に第二の全盛期を迎えていた古巣のジェネシスの活動を尻目に、一枚くらいそうしたアルバムでも残して起きたいとでも考えたのだろう(前作の「ワイズ・アフター・ジ・イヴェント」に多少その兆候が現れていたが)。アルバム冒頭を飾る「Um & Aargh」、旧B面トップの「Souvenir of Remindum」、そしてオーラスの「Nightmare」というアルバムの勘所となる3曲は、それまでの穏やかでノーブルな田園風景を紡いできた彼にしては、ちと異様なほどプログレ色が強い作品になっている。前作に続いて、ルパート・ハイン絡みで参加したマイケル・ジャイルズは、時ならぬフィリップスのプログレ的テンションに、思わず本気を出してしてまったのかもしれない。「おやおや、前のアルバムみたいに、のんびり叩けばいいのかと思って来てみたら、こんなハードな曲をやるのかい!」みたいなところだろうか。

 「Um & Aargh」は、クリムゾン時代に比べればまだまだリズム・キープに徹しているところはあるものの、要所要所に入るメロディックなフィル、中間部でハケット風なギターのバックで流れるライドシンバルの例の装飾感、最後のフェイドアウト部分での聴こえるタムのメロディックなフレーズなど、「おひさしぶり、ジャイルズ!」という感じであった。「Souvenir of Remindum」はトニー・バンクスの作風を拝借したようなシンフォニックなインスト作品だが、さざ波のようなアルペジオの主題が繰り返されたハイライトで、一転して現れるクリムゾン風な変拍子による攻撃的な部分では、ジャイルズのドラムがそのパワーの源泉となっているのは一聴瞭然だ。また、ラストの「Nightmare」は、いくら手数を重ねても決して下品にならず、メロディアスとしかいいようがないフレーズが満載されたまさにクリムゾン時代を彷彿とさせたプレイである。特に中間部、ロールから始まる流れるようなドラミングとそれに続くシンセとドラムのユニゾンなどは圧巻、あれから10年、彼が突然思い出した「21世紀」のドラミングとしかいいようがないものだった。

 そんな訳で、本作はそもそもアンソニー・フィリップスのディスコグラフィ中でも、かなりの傑作の部類に入る仕上がりだと思うが、個人的にはこのようにマイケル・ジャイルズが久々に本領を発揮した演奏が聴けるということでも忘れがたい作品になっている。このアルバムの後、彼は以前にも増していっそう隠遁ドラマーのような存在になってしまい、こうしたドラムを披露することも全くなかったことも、その印象際だてることになった。ちなみにジャイルズが再び「宮殿」風なドラムを披露するのは、このアルバムのはるか後年-まさにしく21世紀に入ってから-結成される21stセンチュリー・スキッツォイド・バンドにおいてである。

« KEATS | トップページ | ROGER WATERS / The Pros & Cons Of Hitch Hiking (ヒッチハイクの賛否両論) »

02 プログレ一般」カテゴリの記事

コメント

それこそ「ワイズ・アフター・ジ・イベント」が自分としては期待はずれだったのもあって、このアルバムは買わずにいたんだけど、教えてもらって、聴いてみたらこちらは傑作でしたねえ。

当時、ジャケットだけ見てスルーしてしまったような気がする。

「ワイズ…」に過剰な期待をしたのもマイケル・ジャイルス参加というふれ込みだったのだけど、たいして叩いていないし、自分にとってものすごく不幸だったのは、英国盤のピクチャーレコード買って、これの音質がすこぶる悪かったのでした。

> 「ワイズ…」に過剰な期待をしたのもマイケル・ジャイルス参加というふれ込み

おまけにルパート・ハイン、ジョン・G・ペリーだもんね。期待するよね。まぁ、あのアルバムも聴きこむほどに味が出てくるんだけど、一聴、退屈しちゃいうのもまた確か。ただ、ジャケはもう本当に素晴らすぃ。

CDで買い直してからは聴いてますよ。

メル・コリンズも参加してたし、オーケストラ?を配した"Regrets"なんかは今聴くと素晴らしい。

ジャケットはねえ…。娘にはこういう絵を描かせたい!

どもです。

> オーケストラ?を配した"Regrets"なんかは今聴くと素晴らしい。

1枚目ではああいう比較的拡大規模な曲もほとんど一人多重でやってましたから、2作目ではバンド編成との折り合いが自分でもよく消化できなかったところがあるんでしょうね。3作目はその当たりをある程度、バンド任せ、ルパート・ハイン任せにして、タガを緩めてしまったところが、逆にジェネシスっぽくなりましたよねぃ。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/552114/47656411

この記事へのトラックバック一覧です: ANTHONY PHILLIPS / Sides:

« KEATS | トップページ | ROGER WATERS / The Pros & Cons Of Hitch Hiking (ヒッチハイクの賛否両論) »

● 愚にもつかぬ つぶやき